アニメーション,折りにふれて (岩波現代文庫)

筆者は25年以上前からスタジオジブリというのは宮崎駿氏が稼いだ金を高畑勲氏が好きに使う会社なのではないか、と考え機会があれば人にもそう言ってきた。高畑氏と宮崎氏の関係について理解が深まったように思う。他のレビュアーの方も指摘している通り、高畑氏は日本の商業アニメーションの発展・ゴシック化した形態として「この〈思い入れ〉型の、いわば私小説的主観主義と映像の映画的リアルさが日本作品の一つの特徴といえる。227p」と述べる。そしてこのような〈思い入れ〉型に対して、「あくまでも正常な想像力を働かせた他者への〈思いやり〉的な感情移入228p」が対比される。著者が述べたように、「火垂るの墓」を観る自分と主人公の関係は〈思い入れ〉よりは〈思いやり〉であって、それ故、主人公の言動が腹立たしかったり、哀切であったりしたのだ。高畑氏はこのように〈思い入れ〉型と〈思いやり〉型を定義して、さらに以下のように述べた。「あるいは、あり得ないことがリアルにうまくいっても『カリオストロの城』みたいな描き方だと、「そんなバカな！」って思いながら笑って大いに楽しめる。ところが、『千と千尋の神隠し』を劇場で見たとき、あんな奇想天外な面白いものがいっぱい出てくるのに、誰も笑っていませんでした。千尋に「思い入れ」して、みんな我が事だと思っているから。」この記述においてカリオストロの城＝〈思いやり〉型、千と千尋の神隠し＝〈思い入れ〉型であることは明らかであり、著者は宮崎氏が表現者としては退行している、と述べているようにさえ読めてしまう。このあたりを読んでいて、もののけ姫の完成会見かなんかの様子をテレビで見た友人が、「（作品の感想を求められた）高畑が『ダメですね』と述べて宮崎駿が憮然とした表情をしていた。」と話していたのを思い出してしまった。これもだいぶ大昔のことであるが。ついでに宮崎駿氏が司馬遼太郎氏、堀田善衛氏との鼎談「時代の風音 」(朝日文芸文庫) で「思い出ぽろぽろ」での登場人物の台詞を「日共史観そのもの」と批判していたのを思い出した。宮崎駿氏と高畑勲氏の絡みからモーッアルトとサリエリを描いた「アマデウス」を連想したりもするが、こちらの方が業が深そうでもある。その上で、改めて、なんだかんだ言いつつも宮崎駿氏は自分の稼いだ金を高畑勲氏に、最後まで、好きに使わせたんじゃないかと思われるのだが、その辺の真相はどんなものだろうか、宮崎市自身はそこかで書いたりいったりしているのだろうか？どなたかにご教示いただければ幸甚。