妹の力 (角川文庫)

柳田国男の著作、たとえば『日本の伝説』とか『日本の昔話』などを読んでいると、かつて、日本の全国各地で似たような怪異譚が語られていたのだということがわかる。ならば、だれだって「じゃ、だれが、どういうふうに伝えていったのだろうか」と不思議に思うんじゃなかろうか。本書は、その回答としても読める一冊である。他の著作と同様に、本書もめっぽうおもしろい。収録された12編のエッセイの中には、たしかに専門すぎて難解なものも含まれているが、総じて読み手の好奇心と想像力を刺激するものばかりだからだ。たとえば、古代の「玉依姫」という名は、ひとりの女性（神？）に与えられた固有名詞ではなく、ある職能をもった女性たちを指す普通名詞なのだ、といったような指摘は、まったく目からウロコだった。本書には、こんな卓見が随所に述べられているのだ。柳田国男という人の文章は、けっして読みやすいとは言えない。だから、万人向けとは、とても思えない。しかし、日本人として、日本人の信仰のそもそもの形式と内容をどうしても知っておきたいという方になら、自信をもって勧められるのが本書である。（ちなみに、柳田の女性論としても読めるのも、本書の魅力のひとつです）